専務 菅野聡のブログ

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読売新聞の記事掲載について-補足内容も含めて-

今回の記事は、東京港区の補聴器購入費用の助成金事業¹に関する記事でした。

昨年の4月にお知らせページでもご案内した助成金事業は、全国的にも注目を集めているようです。全国の自治体に対する調査結果によると、約95%の自治体で補聴器の助成金事業を行っていないことが明らかになっています²。今回の港区の助成金はこの調査結果を基にしており、補聴器相談医による聴覚の診断から認定補聴器技能者による補聴器販売と購入後のケアを前提に事業が行われています。記事にも書かれている通り、137,000円(住民税課税の方はこの半額)が助成されます¹。青山本店は長く港区で唯一の認定補聴器専門店として活動をして参りました。昨今の補聴器価格は上昇傾向にあるものの、認定補聴器専門店としてこの事業を支援するために、住民税非課税の方が自己負担なくこの助成事業を利用できるように、価格を抑えた補聴器も事業の開始に合わせて用意しました。

今回取材にご協力いただいたのは私のお客様でお若い方でしたが、実際には後期高齢者に当てはまる方まで、幅広い年齢の方々が利用されています。この事業が全国展開の足掛かりとなるモデルケースのようですので、港区の認定補聴器専門店として、しっかりと対応していきたいと思います。

補聴器はご自分の希望通りに購入するだけでは、失敗する恐れの高い特徴があります。それは一人ひとりの難聴度や使用環境、耳の形状、音に対する感度等の個人差が大きく、これらを考慮した器種選定や音の設定、そしてトレーニングが必要になるためです。このため今回の事業の必須条件として設定された、補聴器のプロフェッショナルである認定補聴器技能者の介入が必要となります。今回のC子さんについては、記事で紹介されている通り、ご希望の形状と必要な器種に大きな乖離があり、何度かお会いする中でお話を重ね、補聴器のプロフェッショナルとして耳かけ型を推奨し決定した経緯があります。補聴器の販売やフィッティング業務について海外の先進国においては、有資格者による販売が一般的であり、中には博士号を持つ聴覚のプロフェッショナルが販売をする国もあるような業務になります。残念ながら、日本においては1987年に「補聴器士」として国家資格を検討され資格の必要性が認められつつも見送られた過去があり、30年超経過した現在においても、誰でも補聴器を販売できる状態にあります³。

補聴器の広告が毎日のように新聞に入っていると、お客様からよく伺います。このブログに書かれている内容を参考にしていただき、ご自身が来店したくなることが沢山書かれている広告に安易に惑わされず、俯瞰して補聴器の情報をご覧になられることが大切です。インターネットで目的の補聴器店を検索してみると、別の店舗が検索結果の上位に広告として掲載されることも補聴器業界ではまだ規制されておらず蔓延しています。くれぐれも広告の情報についてご注意ください。ご高齢の方については、可能であればお子様世代の方にもご相談の上で、相談先の補聴器店を選定されえることをお薦めします。

補聴器はメンテナンス等で購入後の来店も必要になりますので、お近くで信頼できそうな補聴器専門店にまずはご相談ください。

参考文献
1:東京都港区:港区高齢者補聴器購入費助成事業実施要綱(https://www.city.minato.tokyo.jp/reiki/reiki_honbun/g104RG00003022.html)(2022).
2:PWCコンサルティング合同会社:自治体における難聴高齢者の社会参加に向けた適切な補聴器利用とその効果に関する研究(https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/track-record/assets/pdf/r2-s9-hearing-impaired-elderly-people.pdf)(2021).
3:河村ちひろ,河野康徳:福祉用具の供給システムに関する研究-補聴器供給におけるQOL向上策を中心として-;陵大学紀要,7:87-99(2007).

やはり、質の良い補聴器は、良い。

先日納品させていただいた補聴器とお客様とのお話です。

私の店は認定補聴器専門店のため、医療機関と連携し、難聴でお悩みのお客様に対して、質の高い聴覚ケアを提供しています。特別なご事情で医療機関の受診を望まないお客様はいらっしゃいますが、ほぼ全てのお客様に医療機関をご紹介しています。日頃から連携している耳鼻咽喉科の先生を中心としつつ、かかりつけの耳鼻咽喉科の先生が既にいらっしゃる場合には、かかりつけの先生とも連携します。

医療機関と認定補聴器専門店が連携する意義は、補聴器店による独善的な対応を排除し、多角的な聴覚ケアをご提供できることにあります。その一方で、医療機関と連携する場合には、連携先の先生のお考えを考慮しながら補聴器の選定を行うことが求められます。このため、技能者として高性能な補聴器が必要なお客様と判断しても、連携先の先生が安価な補聴器以外はお認めにならないお考えをお持ちの場合は、簡単には認定補聴器技能者の推奨補聴器をお勧めできない難しさもあります。

このような環境で日々補聴器のフィッティングと販売そして保守を行っていますが、つい先日、興味深い経験をしました。前述の通り、安価な補聴器以外はあまりお認めにならない先生の患者様を担当した際のことです。いつも通り、国内の補聴器平均価格(15万円/個)よりも安価な補聴器で購入前の検証をしたところ、なかなか、違和感が取れません。どのように調整をしても改善しないため、別日に再度お越しいただき、別の角度から測定し、検証させていただくこととしました。数日後にお越しいただき、再度試聴用補聴器にて違和感の除去を試みましたが、やはり上手くいきません。お客様からのご希望もあり、試しに2ランク上の中間クラスの補聴器をご試聴いただいたところ、2日かけて改善できなかった補聴器試聴に対する違和感が、「パッ」と一瞬で解決してしまいました。

高性能な補聴器であっても、お客様の聴力によっては満足いただける効果を引き出せないケースもあるため、高性能な補聴器を安直に、どんどんとお薦めすることはしていません。「補聴器はお客様のきこえに合わせるフィッティングが一番重要」と日頃説明していますが、今回のケースではフィッティングよりも、補聴器の性能が解決策でした。

認定補聴器専門店として、医療機関としっかりと連携はとりつつ、独立した立場にある認定補聴器技能者として、適切な補聴器の選定眼が必要と改めて思いました。補聴器にもよりますが、高機能な補聴器は基本的に下のランクの補聴器で出来ることはできます。しかし、その逆はできません。やはり質の良い補聴器は良いのだなと考えさせられました。「ご予算の可能な範囲で」という注意は必要ですが、補聴器購入時の参考していただければ幸いです。

追伸:
低価格な補聴器で十分なお客様もいらっしゃいますので、ご安心ください。補聴器は必要な機能や使用環境、ご予算等を総合的に踏まえて、ご相談の上決定しています。

3月3日「耳の日」。耳について考える日。

本日3月3日は「耳の日」。「3」が耳の形に似ていることや、「耳(みみ)」の語呂合わせから、日本では3月3日を「耳の日」としていますが、世界的にも同様に「WORLD HEARING DAY」としてWHOが「耳の日」に制定している記念日になります。電話の発明者であり、ろう教育者であったグラハム・ベルの誕生日に由来しているそうです。

記念日の意味するところは、そのことについて思いを巡らせてみる日…となるのかと思い、「耳」について考えてみますと、ここ最近の世の中の動きと関連することがあります。

このところ、毎年のように電車内で物騒な事件が続いていますが、あのような時、一番にその危険な状況を察知できるのは、耳からの情報です。遠くの方から何か気になる声が聞こえたような…何事かな?→周囲を見る。→周囲の人が見ている方向を自分も見る→隣の車両で何かトラブルが起きているようだ…→助けに行くべきなのか、逃げるべきなのか、このままいても大丈夫なのか、周囲の状況と合わせて判断することができる。…つまり、耳は周囲の状況を認識するためのレーダーのような役割があるということです。最近、電車内ではイヤホンで耳を塞いでいる人がとても多くいますが、私はこの「耳を活用したレーダー機能」を働かせるために、不特定多数の人が往来する電車内ではイヤホンを使わないようにしています。

そして、2020年以降、コロナやウクライナ等、目まぐるしく世界規模で大きな変化が日常生活に多大な影響を与えています。来店されるお客様に近況を伺ってみても、ご高齢の方は外出を最低限に、集まりにも参加を控えるようになられた方が多く見受けられます。友達と話す機会が無くなっちゃったから、久しぶりに話しができて良かったというお声もありました。慣れてしまったコロナの日常にありますが、この耳の日の本日は、「対話によるコミュニケーションの価値」、そしてそのために必要となる「補聴器によるヒアリングケア」について、改めて考える日になればと思っています。

追伸
私はイヤホンについては、主に飛行機で移動する時にJust earを使用しています。着陸するまでの1~2時間、ずっとつけていても痛くない装着感と、構造上の特徴から完全な遮音にはならない安心を感じるからです。何より自分が深く関わっているイヤホンでもあるからですが。イヤホンについては歩きながら使用している人もいますが、私は使いません。音楽よりも日常の音を聞く方が好きという志向があるからでもあります。今朝も出勤途中に歩いていた時、小鳥のさえずりが聞こえ、ふとその方向に視線を動かしたところ、公園に梅の木があることに気づきました。梅の花がきれいに咲いているなあと、閉塞感のある世の中にあって、そんな心地よい気持ちにもさせてくれる日常の音が私は好きです。