補聴器
昨日は長年お世話になっているデザイナーさんが所属するデザイン会社GKデザイングループの創立70周年パーティーにご招待いただき、京王プラザホテルを訪れました。個人的にも思い出深い場所でありましたが、日本のデザイン界においても縁のあるホテルのようでした。
GKさんは世界中に200名以上のデザイナーを擁する世界最大の独立系総合デザインファームの一つであり、プロダクトデザインから国家的事業に至るまで、そのデザイン領域は多岐にわたります。
そのような大手のデザイン会社がなぜ東京ヒアリングケアセンターという家族経営の小さな企業に関わってもらえるのか、それもまた2000年代の偶然のご縁がもたらしてくれたものでした。
GKさんと東京ヒアリングケアセンターには企業の運営方針に強い親和性がありますので、GKさんをご紹介しつつ東京ヒアリングケアセンターについてもお話ししたいと思います。
GKさんには、本質を追及するDesigning for essential valuesという考えが根本にあります。そして、本質を追及するための行動規範として「運動・事業・研究」という三翼を回転させる考え方を掲げています。第一に運動があり、その次に事業、そして研究へとサイクルを回す考え方です。
東京ヒアリングケアセンターにも同じ思想が根底にあります。補聴器を取り巻く日本の社会問題を解決するための提言をし続けることを存在意義としているため、GKさんと同じく「運動」が第一義にあります。そして社会問題の解決を提言する運動を実践するために事業があり、運動と事業を通して見つかった新たな課題の探究へとつながり、新たな運動を生み出す力を生産しています。
GKさんが第一線でデザイン界をリードし続けている理由として挙げられているのは、第一義としているのが事業ではなく、運動であるということ。営利企業は求めに応じて仕事をしているだけでは、売上台数や利益など数字中心の事業活動になってしまいます。運動とは、事業の宣伝活動に利用するためのものではなく、社会が気づいていない本質を発信していくことにあると考えます。
2000年代にGKさんに関わっていただいた際に何を目指していくのかを問われ、「プロフェッショナルであること」という一つの明確な方向性を定めました。本質を追及するという考えから定めたものでしたが、常に襟を正し、背伸びをしながら挑戦し続ける険しい道。最近になりようやく地に足がついてきたように感じます。
「成功とは…その人が幸せと感じているのであれば、もう成功しているのだそうです」。こちらは創立70周年パーティーの来賓の方が祝辞としてご紹介されていたお言葉です。
運動をする場を求めて青山に出店し、次に商業施設の低層階の物販フロアという今までの補聴器業界の常識ではありえない店舗を東急プラザ渋谷に開設し、多くの来館者様に難聴や補聴器の本質をお届けできている現状に、出店した意義を感じています。新型コロナウイルス感染症による数年にわたる生活自粛から解放されたことで、ようやく第一義としている運動ができるようになりました。これは私にとっては幸せなことであるため、(事業の売上はさておき…)既に成功していると思ってよさそうです。以前デザイナーさんから言われた一言が胸に残っています。「確かに今までなかったものを作ったのに、同じようなものを簡単にマネされると、ちょっと嫌ですよね。でも、見方を変えれば嬉しいことでもあります。社会に受け入れられると判断したため、参考にしたのでしょうから。」と。そういう点でも成功しているのだと思います。
今、あなたは幸せでしょうか。ご年配のお客様の中には、まだまだ生活自粛を続けておられる方もいらっしゃいます。社会の変化を受入れつつ、幸せに感じられるように、微力ながらお役に立つことができればと思います。
GKさんの70周年記念誌がAXIS10月号増刊として発売されています。ご興味がありましたらご一読ください。
まず初めに、この度5月18日(木)に発生しました近隣のNTT設備の故障により、お電話等が繋がらないご不便並びにご心配をおかけいたしました。2日がかりになってしまいましたが、定休日の前日に発生したこともあり最小限の被害で収まりました。本日20日土曜日より通常通り営業しております。
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パンデミックという誰もが初めての経験。この3年間、どのように過ごされていましたか。私はちょうど東急プラザ渋谷店を開業して間もなくパンデミックになってしまったことから、「激動の3年間」でした。
東急プラザ渋谷店は青山への出店の時とは大きく異なり、建物が立つ前の段階から出店のお声がけをいただいていたので、開業2年前から準備を進めていました。今までになく、それでいて日本の補聴器と補聴器専門店に対するネガティブな概念を変えられる、必要とされる補聴器専門店の在り方をゼロから考えなければと、4年前の今頃もギリギリまで修正を図っていました。東急プラザ渋谷店は商業施設のテナントでありながら、しっかりと検証をしてご購入の希望を確認してから販売をするスタイルで業務を行っているため、販売までに1~数カ月の期間を要します。それが、パンデミックにより、開業から3か月というこれからご注文が増えていく時期に来館者が激減してしまいました。マスクが店頭からなくなったあの頃のことです。その後、緊急事態宣言による休館が度々発生し、2年続けて数十日間もスタッフを休業させることもありました。緊急事態宣言と感染者数の増大で来館者がほぼいない時期を繰り返しました。どのメディアを見ても感染者数の公表の際にスクランブル交差点の映像を使うことが当たり前となり、「渋谷は怖い」というイメージが高齢者に刷り込まれてしまい、長く渋谷が避けられた期間が年単位で続きました。共感し、出店を決意した「大人のための渋谷」という開業時に聞いていたコンセプトも吹き飛んでしまいました。描いていた売上計画も崩れてしまい、志一つのみで大きな出店をした小規模家族経営の会社だった当時の我が社には、天地がひっくり返るほどの大きな痛手でした。
会社の要でもあり、高齢スタッフでもある社長(私の父)が感染しないように、ワクチン接種が始まるまでの1年超は接客を中止し在宅ワークをしてもらいました。もう一名の高齢スタッフである私の母も途中から在宅に切り替えました。少人数でスタートし、軌道に乗る頃合いを見て増員を計画していた中、増員する前に大黒柱2名が離脱する状況はまさに「緊急事態」。スタッフに過度な超過勤務を強いることはできないため、可能な範囲の協力はしてもらいつつも、社長が抜けた大きな穴のサポートは私と妻の沙織で対応しました。青山本店、品川大井町店、青山を終えてから夜の渋谷の担当と全店の接客を行いつつ、再建計画も考えなければならない。このような中、特に大変だったのがJust earの全国出張です。飛行機や新幹線のエアロゾル感染がワイドショーで何度も取り上げられていたこともあり、感染の恐怖と闘いながらも、当時はJust earの国内販売を当社が一手に担っていたこともあり、「出張しなければ大企業の国内事業を停滞させてしまうではないか」、「俺がやらずに誰がやるのか」と自分を鼓舞して全国を回りました。芸能人がライブを開催すると批判を受けるような時期もありました。風評被害を避けるために出張の情報は極力公表せず、移動時は一人フェイスシールドを着用し、夕食はビジネスホテルでコンビニ弁当という完ぺきではないものの出来うる防衛策を徹底し、過度なストレスのみが溜まる出張を繰り返していました。今思えば心を休める時間のない精神的にかなりハードな日々を何とか切り抜けてきたものだと思います。家族を含め、支えになってくれた方々に感謝の一言です。
スタッフに対しては、コロナ感染や働きすぎで倒れないように、超過勤務だけは気にしつつも、丁寧な気遣いなどは余裕もなく、大いにサポートが足りなかっただろうと思います。大きな出店の直後で資金的なゆとりのない中、雇用調整助成金が出るのか相談をしても東京都の判断はあやふや。でも開店休業状態ではなく、商業施設が休館なのでスタッフは休ませないといけない。満額支給する必要はないという専門家の意見がありつつも、最低限の生活を守るために休業中の給与を満額支給としたのは大変な決断でした。企業に所属しながら、社会の事情で2年続けて1~2か月もの間、仕事から解放されてフリーな時間を過ごすことになった特殊な休業は、この先はまずないでしょう。
コロナが大流行している中、来店を促す大々的な広告を出すのもいかがなものかと思い、長期戦を覚悟してコロナが明けるまでは、青山で会社を支える決意をして3年が経ちました。社長の復帰と呼応し、東急プラザ渋谷店が段々と稼働し始めたこともあり、先日の決算で昨年度は大幅な黒字回復を果たすことができました。賞与は想定通り、決算賞与はパートタイムのスタッフも含め全てのスタッフに想定以上の支給を実現できました。お客様、お取引先、大変な時期を支えてくれたスタッフ、新たに加入し盛り立ててくれたスタッフ等、多くの方々のおかげです。利益が出たら決算賞与で還元したいという東急プラザ渋谷店開業時の思いをようやく実現することができ、やっとスタートラインに戻ってきたという気持ちです。年間のスタッフの賞与も想定以上に支給でき、昇給も行うことができたので、コロナショックで大幅に抑えていた自分の年収も今年度から見直すことにしました。今年から一段と頑張らねばと思います。
この3年で、見えていた景色は大きく変わりました。大規模な調査結果によると、補聴器を取り巻く状況がかなり改善しているようです。しかし、日々の接客に焦点を当てると、毎日のように補聴器で困っている方、誤解されている方と遭遇します。まだまだ私たち東京ヒアリングケアセンターだからこそできる、やらなければならない仕事が多くあると確信しています。
新型コロナウイルス感染症が5類に移行してから、週明けには2週間になります。改めて思うと、まだ2週間も経っていないのかと驚くほど、すれ違う人たちのコロナ対策も明けてきていることを感じます。私も少しずつですが、ここまではコロナ前の生活に戻してみよう…そんな試みを始めています。
長くなりましたが、最後にこのブログを読んでいただいた方へのメッセージで終わります。これからどのような生活をしていこうと考えていますか。3年という長期にコロナ対策を続けたことで、人付き合いや外出が億劫になってしまっていませんか。健康を保つ上でコミュニケーションはとても大切です。もし、難聴や補聴器でお困りであれば、ぜひご相談ください。私が手塩にかけて育んできた東急プラザ渋谷店は今も古びていません。年中無休で営業し、どなたでもふらっと立ち寄れるオープンフロアの展示スペースも併設しています。車いすでそのまま入室いただける段差のない大型バリアフリー防音室も完備しています。フロアのスタッフは皆熱心に業務に取り組んでくれています。あなたやあなたのご家族が補聴器や難聴対策に疑問を感じていらっしゃるようであれば、何かしら得られるものが東急プラザ渋谷店にはあると、私は自信をもって思っています。ぜひお立ち寄りください。
今回の記事は、東京港区の補聴器購入費用の助成金事業¹に関する記事でした。
昨年の4月にお知らせページでもご案内した助成金事業は、全国的にも注目を集めているようです。全国の自治体に対する調査結果によると、約95%の自治体で補聴器の助成金事業を行っていないことが明らかになっています²。今回の港区の助成金はこの調査結果を基にしており、補聴器相談医による聴覚の診断から認定補聴器技能者による補聴器販売と購入後のケアを前提に事業が行われています。記事にも書かれている通り、137,000円(住民税課税の方はこの半額)が助成されます¹。青山本店は長く港区で唯一の認定補聴器専門店として活動をして参りました。昨今の補聴器価格は上昇傾向にあるものの、認定補聴器専門店としてこの事業を支援するために、住民税非課税の方が自己負担なくこの助成事業を利用できるように、価格を抑えた補聴器も事業の開始に合わせて用意しました。
今回取材にご協力いただいたのは私のお客様でお若い方でしたが、実際には後期高齢者に当てはまる方まで、幅広い年齢の方々が利用されています。この事業が全国展開の足掛かりとなるモデルケースのようですので、港区の認定補聴器専門店として、しっかりと対応していきたいと思います。
補聴器はご自分の希望通りに購入するだけでは、失敗する恐れの高い特徴があります。それは一人ひとりの難聴度や使用環境、耳の形状、音に対する感度等の個人差が大きく、これらを考慮した器種選定や音の設定、そしてトレーニングが必要になるためです。このため今回の事業の必須条件として設定された、補聴器のプロフェッショナルである認定補聴器技能者の介入が必要となります。今回のC子さんについては、記事で紹介されている通り、ご希望の形状と必要な器種に大きな乖離があり、何度かお会いする中でお話を重ね、補聴器のプロフェッショナルとして耳かけ型を推奨し決定した経緯があります。補聴器の販売やフィッティング業務について海外の先進国においては、有資格者による販売が一般的であり、中には博士号を持つ聴覚のプロフェッショナルが販売をする国もあるような業務になります。残念ながら、日本においては1987年に「補聴器士」として国家資格を検討され資格の必要性が認められつつも見送られた過去があり、30年超経過した現在においても、誰でも補聴器を販売できる状態にあります³。
補聴器の広告が毎日のように新聞に入っていると、お客様からよく伺います。このブログに書かれている内容を参考にしていただき、ご自身が来店したくなることが沢山書かれている広告に安易に惑わされず、俯瞰して補聴器の情報をご覧になられることが大切です。インターネットで目的の補聴器店を検索してみると、別の店舗が検索結果の上位に広告として掲載されることも補聴器業界ではまだ規制されておらず蔓延しています。くれぐれも広告の情報についてご注意ください。ご高齢の方については、可能であればお子様世代の方にもご相談の上で、相談先の補聴器店を選定されえることをお薦めします。
補聴器はメンテナンス等で購入後の来店も必要になりますので、お近くで信頼できそうな補聴器専門店にまずはご相談ください。
参考文献
1:東京都港区:港区高齢者補聴器購入費助成事業実施要綱(https://www.city.minato.tokyo.jp/reiki/reiki_honbun/g104RG00003022.html)(2022).
2:PWCコンサルティング合同会社:自治体における難聴高齢者の社会参加に向けた適切な補聴器利用とその効果に関する研究(https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/track-record/assets/pdf/r2-s9-hearing-impaired-elderly-people.pdf)(2021).
3:河村ちひろ,河野康徳:福祉用具の供給システムに関する研究-補聴器供給におけるQOL向上策を中心として-;陵大学紀要,7:87-99(2007).