専務 菅野聡のブログ

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補聴器選びで気を付けたい5つのポイント

はじめに

日本では難聴に関する教育が進んでいないことから、きこえのケアや補聴器に関する知識が不足していることで、それらに関する多くの誤解やトラブルが生じています。東京ヒアリングケアセンターは、「補聴器に関する正しい情報をもっと身近に」を合言葉に、きこえや補聴器でお困りの方々のお役に立てる情報発信を行ってきました。

今回は、今年の3月に日本の医学会連合が加齢性難聴の対策として共同宣言1)をされたことを機に、補聴器選びで気を付けたい5つのポイントを解説します。5月に私も取材を受けました補聴器に関する東京新聞の特集記事もわかりやすく解説されているため、ご来店の際には記事をお読みいただければ幸いです。

この記事を書いた人

創業者・菅野利雄が自宅の一室で補聴器店を開業。菅野 聡(すがのさとし)
東京ヒアリングケアセンターの専務取締役。
認定補聴器技能者。イヤーフィッティングマイスター(Just ear)。修士(老年学)。
補聴器フィッティングと老年学が専門です。プライベートでは、折り畳み式の小型自転車(Birdy、Brompton)のツーリングが趣味で、多摩川サイクリングロードを羽田空港から北上中です。

このような時にお勧めの記事です

・失敗しない補聴器の購入を考えている
・補聴器の購入方法がわからない
・補聴器を購入してもうまく使えていない
・目立たない補聴器を購入したい

目次

赤文字をクリックすると、ご希望の項目に移動できます。
この記事の所要時間は3分程度です。

補聴器選びで気を付けたい5つのポイント

  1. 気になったら、まずは試聴してみましょう
  2. 医師と連携している認定補聴器技能者から購入しましょう
  3. 助成金情報をチェックしましょう
  4. 親身で、通いやすい店舗で購入しましょう
  5. ご家族やご友人同席で相談に行きましょう

1.気になったら、まずは試聴してみましょう

日本補聴器工業会によると、補聴器を購入するまでに難聴を自覚してから平均で2~3年経過していて、補聴器所有者の内51%がもっと早く購入すればよかったと答えています2)。きこえにくく生活で支障を感じる方、補聴器のことが気になる方は、「百聞は一見に如かず」で、まずは補聴器がどんなものなのか、手に取り、試聴してみましょう。 試聴した結果、「雑音が少なく、思った通りの良い音」という反応を示される方がいる一方で、難聴が深刻な場合は想像通りのきこえにならない場合もあります。その場合にも高度な調整技術を持っている専門店では、時間をかけて補聴器を聞こえやすい状態に合わせられることがあります。また、家庭や職場でどのような効果が得られるかを体験することも大切です。ご購入の前に貸出サービスを行っているお店で、聴き心地を相談しながら慎重に購入されることをお勧めします。

2.医師と連携している認定補聴器技能者から購入しましょう

補聴器の設定は主に認定補聴器技能者という有資格者が一人ひとりのきこえに合うように、補聴器の詳細な設定やトレーニングを行いますが、実際に補聴器の購入前にしっかりと検証するためには、まずは難聴の状態を医師に診断していただくことをお勧めしています。ご購入後に難聴が進行する場合もあるため、ご購入前から受診して通院できる「耳のかかりつけのお医者さん」がいると安心です。補聴器の専門店にご相談されると、補聴器や難聴に詳しい先生を紹介してもらうこともできます。

※補聴器をほしいと思われた際に、「お医者さんに行くべきか、補聴器店に行くべきか迷う」と言う声も聞かれます。「まずはお医者さんへ」というご案内が一般的ですが、きこえでお困りの方に日本の医師が補聴器を推奨する割合が海外と比べて圧倒的に低い(諸外国50~80%→日本37%)ことも明らかになっています1) 2)。現場レベルの感覚としても、「なんとか親を連れて受診しても、補聴器を推奨されなかった」という声は、よく耳にします。この海外との大きな差がある問題を踏まえて、2025年の3月に医学会連合が改善を図るための共同宣言をしました1)。医師と補聴器技能者の円滑な連携が進んでいくことを期待しています。

3.助成金情報をチェックしましょう

補聴器は精密な管理医療機器であり、値段は比較的高額です。そのため利用せずに我慢される方も少なくないですが、近年は高齢の方のコミュニケーションを活性化し、社会参加を促す目的で補聴器の普及に力を入れている自治体が増えました。東京都は介護予防のために区市町村に対して、きこえに関する支援事業にも取り組んでいることもあり、都内の自治体が公的支援に取り組みやすくなってきているようにも見えます3)。全国的にはまだこれからという段階ではありますが、お住まいの自治体の情報をチェックしてみてください。

尚、申請手順や必要書類の用意、そして有効期限等、申請条件は複雑で、お住まいの自治体により大きく異なります。手順を間違えてしまうと、助成を受けられない場合があります。助成金の申請に慣れている補聴器専門店に相談されると、適切な手順を案内してもらえます。

4.親身で、通いやすい店舗で購入しましょう

補聴器は専門店で54%の方が購入されている一方、兼業店や医療機関に出入りしている販売店から出張販売で購入するケースもあります2)。どの販売店から購入することが正解とは言えませんが、大切なポイントとしては、補聴器は悩みを相談して購入するものということです。何度も顔を合わせて、より良い聴こえのための対応を親身に考えてくれるお店がお勧めです。一定の技能や知識があることは大前提ですが、「自分の悩みを理解し、サポートしてくれるかどうか」を重視されるとよいと思います。

 また購入後に難聴が進行する場合があり、きこえの変化に合わせて補聴器の音を再設定する必要もあります。そして、昨今の小型化の流行の影響により、わずかな耳垢による汚れで、急に音が出なくなる不具合が発生する場合もあります。そのため、数か月ごとにメンテナンスに通えて、急なトラブルの際にも相談しやすい、「通いやすい場所」に店舗があるかどうかも大事なポイントです。ご自宅や職場などから、通いやすいお店を探してみましょう。尚、医療機関から紹介してもらう場合にも、最寄りの販売店を紹介してもらうことをお勧めします。

5.ご家族やご友人同席で相談に行きましょう

国民生活センターによると、購入時に販売店の接客話術で意図せず購入しトラブルになった相談の声が寄せられているようです4)。専門店でのご購入がお勧めである一方、専門資格を有する補聴器専門店であっても、目を疑う対応をしている店舗があります。例としては、このような声を耳にします。

  • 「来店初日に試聴用として高額の小型耳あな型を店員さんに勧められるまま耳の型を採取されて試用することになり、返品しにくくて購入してしまった。」
  • 「インターネットで補聴器店の店名を検索したら、他店の広告が最上位に検索結果と誤認されやすい状態で掲載され、別の店舗に行ってしまった。」

この他、消費者庁5)が注意喚起を促す例も見られるため、認知機能が低下しやすい高齢の方々が補聴器を検討する場合は、店舗に相談に行く際にお子様やご友人などに同席いただくことをお勧めしています。

補聴器を使用すればなんでも聞こえると思われるご家族が多いのですが、実際にはきこえの状況により、補聴できる範囲が一人ひとり異なるため、ご本人だけでなく、ご家族がストレスを抱えないためのコミュニケーションの工夫をお伝えする場合があります。補聴器を使う上でのサポートを同居のご家族にお願いすることもあります。このため、同居のご家族も一度は同行されることをお勧めします。

補聴器のことは、東京ヒアリングケアセンターへ。
青山本店又は品川大井町店にお気軽にご相談ください。

・青山本店(認定補聴器専門店)

107–0061 東京都港区北青山2–9–15 三輪ビル1階
交通:東京メトロ銀座線「外苑前」駅より徒歩2分
タクシー等でお越しの際は、神宮前三丁目交差点から熊野通りに入ってください
電話:03–3423–4133
ファクシミリ:03–3423–1991
営業時間:AM 10:00~PM 5:00
定休日:日曜日・祝日

・品川大井町店

140–0014 東京都品川区大井5–3–8
交通:JR京浜東北線「大井町」駅 東急バス2番乗場よりバス5分「大井5丁目」バス停下車
電話:03–5718–4133
ファクシミリ:03–5709–0657
営業時間:AM 10:00~PM 4:00
火曜日・水曜日・木曜日のみ営業

補聴器についてのお問合せ

参考文献

  1. 日本医学会連合(2025):https://www.jibika.or.jp/uploads/files/kyodosengen_2.pdf
  2. 日本補聴器工業会(2022):https://hochouki.com/files/2023_JAPAN_Trak_2022_report.pdf
  3. 東京都(2025):https://www.fukushi1.metro.tokyo.lg.jp/kaigo_frailty_yobo/business/communication-support.html
  4. 国民生活センター(2021):https://www.kokusen.go.jp/news/data/n-20210225_1.html
  5. 消費者庁(2020):https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_policy/caution/caution_029/

大学院修了のご報告:エイジングケアの専門家として加齢性難聴に向き合うために。

業務と並行して在籍していた大学院の博士前期課程を先日修了し、「修士(老年学)」の学位を取得しましたので、このことを少し書きたいと思います。

日頃の接客において、適切に補聴器のフィッティングができていても、補聴器の使用を望まれないお客様が一定数います。難聴以外の老化に起因する問題が背後にあることを感じ、その要因とリスクを把握し、実現可能な解決策を図る力を身に着けたいという思いがありました。そんな思いを持ちつつ2019年の12月に新たな補聴器店の在り方を具現化したのが、東急プラザ渋谷店です。補聴器の使用を望まれていない方々と繋がるために、ご家族にアプローチするという当時のコミュニケーションデザインは手ごたえをつかんでいました。しかし、これから飛躍させていこうとした矢先に、パンデミックが起きてしまいました。一大プロジェクトが始動して3か月程度のことであり、心血を注いで数年間準備してきたものが全て無に帰してしまう出口の見えない焦燥感が渦巻いていました。開店休業状態のこの期間をポジティブに活用するために、パンデミックが始まってちょうど1年後の2021年の春に、思い切って以前から心にあった疑問を解決するための行動に出ました。老化を専門とした大学院(学位プログラム)の門を叩いたのです。日本で唯一老年学の学位を取得できる学際的老年学教育を行う桜美林大学の大学院キャンパス(千駄ヶ谷キャンパス)が、青山本店から徒歩圏内という恵まれた立地であったことも、きっかけの1つでした。日常に戻った多忙な現在では到底チャレンジできなかったため、パンデミックによる空白期間を有効活用できて良かったと思います。

私が学び、そして研究をしたのは、老年学というエイジングの問題に取り組むための学際的学問です。1年目は老年心理学ゼミに所属し長田久雄教授(当時)に師事。2年目以降は老年医学ゼミに転籍し渡辺修一郎教授に師事し、加齢性難聴とその聴覚ケアに関する研究をしました。エイジングとは、年を重ねていく中で誰もが直面する「老い」のことです。避けて通ることはできません。このため、老化のスピードを緩やかにするためのアンチエイジングという考えがあります。最近はエイジングケアというキーワードと共に、老化現象が深刻になる前からの対策の重要性が浸透しつつあるように思います。皮膚のシワやシミ等のように比較的若いうちから衰えを自覚しやすいものから、主に高齢期に見られる歩幅が狭くなる老化現象など、年代を問わず様々な老化があります。加齢性難聴は主に40代以降に現れます。加齢性難聴とは特定できる原因がなく聴力が低下した難聴のことです。「老化」と一言で言っても、身体的な老化が全てではありません。心理的老化もあれば、社会的な老化もあります。または、それらが単体ではなく複合的に影響しあう老化もあります。補聴器による加齢性難聴の対応は、身体的老化に対するアプローチを意味します。エイジングケアの視点で加齢性難聴に起因する複合的な問題を捉えてみると、補聴器のフィッティングをしているだけでは、老化現象に対する十分な対策を提供できていないことがわかります。

今後は大学院で学び、研究して得た知見を活用し、より一段ハイクラスのエイジングケアを基盤とした聴覚ケアをご提供してまいります。現在進めている聴覚ケアに対する研究が一段落した後には、老化に関する研究の裾野を広げ、実務家として更なる未解決の問題に踏み込んでいきたく思っています。

幸せとは -GKデザイングループ創立70周年パーティーを訪れて-

昨日は長年お世話になっているデザイナーさんが所属するデザイン会社GKデザイングループの創立70周年パーティーにご招待いただき、京王プラザホテルを訪れました。個人的にも思い出深い場所でありましたが、日本のデザイン界においても縁のあるホテルのようでした。

GKさんは世界中に200名以上のデザイナーを擁する世界最大の独立系総合デザインファームの一つであり、プロダクトデザインから国家的事業に至るまで、そのデザイン領域は多岐にわたります。
そのような大手のデザイン会社がなぜ東京ヒアリングケアセンターという家族経営の小さな企業に関わってもらえるのか、それもまた2000年代の偶然のご縁がもたらしてくれたものでした。

(パーティーの合間に放映されていたGKデザイングループ各社の作品紹介の中で、東急プラザ渋谷店もご紹介いただけるサプライズがあり、とても嬉しかったです。いつも支えていただけていることに感謝しています。)

GKさんと東京ヒアリングケアセンターには企業の運営方針に強い親和性がありますので、GKさんをご紹介しつつ東京ヒアリングケアセンターについてもお話ししたいと思います。
GKさんには、本質を追及するDesigning for essential valuesという考えが根本にあります。そして、本質を追及するための行動規範として「運動・事業・研究」という三翼を回転させる考え方を掲げています。第一に運動があり、その次に事業、そして研究へとサイクルを回す考え方です。
東京ヒアリングケアセンターにも同じ思想が根底にあります。補聴器を取り巻く日本の社会問題を解決するための提言をし続けることを存在意義としているため、GKさんと同じく「運動」が第一義にあります。そして社会問題の解決を提言する運動を実践するために事業があり、運動と事業を通して見つかった新たな課題の探究へとつながり、新たな運動を生み出す力を生産しています。
GKさんが第一線でデザイン界をリードし続けている理由として挙げられているのは、第一義としているのが事業ではなく、運動であるということ。営利企業は求めに応じて仕事をしているだけでは、売上台数や利益など数字中心の事業活動になってしまいます。運動とは、事業の宣伝活動に利用するためのものではなく、社会が気づいていない本質を発信していくことにあると考えます。

2000年代にGKさんに関わっていただいた際に何を目指していくのかを問われ、「プロフェッショナルであること」という一つの明確な方向性を定めました。本質を追及するという考えから定めたものでしたが、常に襟を正し、背伸びをしながら挑戦し続ける険しい道。最近になりようやく地に足がついてきたように感じます。

「成功とは…その人が幸せと感じているのであれば、もう成功しているのだそうです」。こちらは創立70周年パーティーの来賓の方が祝辞としてご紹介されていたお言葉です。
運動をする場を求めて青山に出店し、次に商業施設の低層階の物販フロアという今までの補聴器業界の常識ではありえない店舗を東急プラザ渋谷に開設し、多くの来館者様に難聴や補聴器の本質をお届けできている現状に、出店した意義を感じています。新型コロナウイルス感染症による数年にわたる生活自粛から解放されたことで、ようやく第一義としている運動ができるようになりました。これは私にとっては幸せなことであるため、(事業の売上はさておき…)既に成功していると思ってよさそうです。以前デザイナーさんから言われた一言が胸に残っています。「確かに今までなかったものを作ったのに、同じようなものを簡単にマネされると、ちょっと嫌ですよね。でも、見方を変えれば嬉しいことでもあります。社会に受け入れられると判断したため、参考にしたのでしょうから。」と。そういう点でも成功しているのだと思います。

今、あなたは幸せでしょうか。ご年配のお客様の中には、まだまだ生活自粛を続けておられる方もいらっしゃいます。社会の変化を受入れつつ、幸せに感じられるように、微力ながらお役に立つことができればと思います。

GKさんの70周年記念誌がAXIS10月号増刊として発売されています。ご興味がありましたらご一読ください。

AXIS 10月号増刊「GK Design Group Activating Human Society」 2023年9月27日(水)発売です。 | Webマガジン「AXIS」 | デザインのWebメディア (axismag.jp)