専務 菅野聡のブログ

高齢の方々に対する補聴器広告の在り方について ~社会問題になったリスティング広告を基に~

先週、トイレまわりのインターネット広告(検索広告)によるトラブルが社会問題として取り上げられました。トイレが詰まって困った際にインターネットで検索して修理に来てもらった業者から、不当な金額の作業費用を請求されたというもの。実際に若手の著名俳優もその悪徳商法の罠にはまってしまったということで、多くのメディアで取り上げられていました。これは、インターネット検索を行った際に、本来の検索結果よりも上に、検索結果とほぼ同じデザインで表示される「リスティング広告」という広告をクリックしてしまったことによるトラブルでした。

今回の社会問題となったリスティング広告について疑問を持たれているようであれば、補聴器業界の事例を基に、深堀りしてまとめてみましたのでご覧いただければと思います。少し長文となりますがご容赦ください。

私たちは普段、民放のテレビ番組を無料で鑑賞する代わりに、途中で必ずその番組を支援している企業の広告を目にします。これと同じく、インターネットでは検索機能を無料で利用する代わりに、検索した時に、広告も掲載されるという仕組みです。テレビ番組の広告と大きく異なるのは、広告表示に対してテレビ広告程の厳格さがないこと。そして、広告主の中に悪徳な業者が多く紛れているということ。更に、検索結果を支援するために広告を掲載しているのではなく、検索されるキーワードの価値に“あやかって”、検索者をいかに自社の広告に誘導させるかを主目的としていることです。そして一番問題な点は、表示されている情報が「広告」であることを検索者が認識しにくい表示形式になっていることです。10年以上前は、「広告表示」と「純粋な検索結果」が明らかに区分けされていて、意図せず広告をクリックするようなことが起きにくいように配慮されていました。しかし、現在は検索結果とは関係のない広告が、あたかも検索キーワードと関連性の高いページであるように誤認しやすい方法で表示されてしまっていることで、広告とは知らずに広告ページをクリックしてしまう問題を引き起こしています。

ニュースやワイドショーで取り上げられていたのは、このあたりまでの議論だと思います。私が本日のブログで取り上げたいのは、高齢の方々に対する補聴器のインターネット広告の在り方についてです。

インターネット広告は補聴器の分野でも利用されている一方で、補聴器業界には厳しい広告ガイドラインが設けられています。それは、補聴器が医療機器であり自由に広告を行ってはいけないこと、そして特にご高齢の難聴者を不適切な広告から守るために設けられています。当店も加盟している日本補聴器販売店協会では、以下に取り上げるような様々な「ガイドライン」を制定し、適切な情報発信の在り方を示しています。

医療機器の広告は,他の商品の広告と異なり,消費者自らがその有効性・安全性を適切に判断することが困難なものです。また,誤用によって健康被害が生じる恐れがあることから,薬事法によって広告が規制されており,虚偽や誇大な広告を防止するなど,広告の適正化を図るために医薬品等適正広告基準が定められています。不適切な広告は,これに基づいて排除・取締まりが行われます。

(日本補聴器販売店協会・補聴器の適正広告・表示ガイドラインより抜粋)

私たち日本補聴器販売店協会では,設立当初から補聴器の適正供給を目的として,認定補聴器技能者による対面販売を推奨し活動してまいりました。しかし法的拘束力のない中,補聴器販売ルートは玉石混淆とも言われ,消費者が適正な販売と悪質な販売の区別をすることは未だ難しいのも事実です。

(日本補聴器販売店協会・補聴器の広告・表示事例集 『補聴器適正広告・表示ガイドライン』別冊より抜粋)

特に高齢者を中心とした聞こえの不自由者(難聴者)に適正な補聴器と関連機器を供給して,そのハンディキャップの軽減を図り,もってそれらの人々の社会参加と生き甲斐のある質の高い生活の実現に寄与するという社会的責任を負うとの基本理念から,難聴者を始めとして広く社会の隅々までに補聴器情報が適切な手段によって的確かつ迅速に提供,収集し,伝達されなければならない。

不適切なプロモーションが高じて補聴器販売に不当競争のスパイラルも生じるかもしれないことに対する配慮も必要である。元来は,「倫理綱領」あるいはこれを越える高い倫理観を持って実施されるプロモーションでは問題が生じない筈であるとはいえ,遵守すべき行動基準としてこれを共有するため「補聴器販売業プロモーションコード(以下,本コードという)」を制定する。

(日本補聴器販売店協会・補聴器販売業プロモーションコードより抜粋)

このようなガイドラインを基に、高齢者に対する広告の在り方を考えてみた時、補聴器業界では適切ではない広告活動が行われていることがわかります。インターネット広告においては、困っていて「漠然としたキーワード」で網羅的に検索した場合ではなく、「店名」等の限定した特定の情報を調べるために検索した時にも、同業他社の広告が掲載されてしまいます。試しに当社の店名である「東京ヒアリングケアセンター」で検索してみた結果は、以下の通りです。

検索結果を並べてみると、「1~5」の5つの表示は「東京ヒアリングケアセンター」というキーワードに対する広告です。純粋な検索結果は6番目以降に表示されていました。当店の店名を検索している方は、当店のWebサイトを見るため、又は当店に関する情報を調べるために検索しているはずですが、その情報に辿り着くまでに、多くの関係のない同業者の広告が表示されてしまっています。「4」に表示されている広告は、当店のことを調べるために検索いただいたお客様を、他社広告から守るために当店が行っている自社広告です。広告費用はオークション形式のため、関連性の一番強い自社広告であっても、高額の広告費用を支払っている広告主が上位に表示されてしまうことがあり、自社が保有する登録商標が含まれるキーワードでありながら4番手に表示されています。「4」の中に小さく「広告」と表示されているのを気づくことができたでしょうか。「1~5」の広告には全て同じ箇所に表示されていますが、若い方であっても注意しながら見ない限り、誤ってクリックしてしまう状況にあります。「6」のようにいくつかのページメニューまで詳細に表示される広告もあります。高齢の方々が検索結果と全く関係のない情報が先頭に幾つも表示されていることを理解して、本人が必要とする情報に辿り着くことは、なかなか難しいことと思います。団塊世代の一世代下に当たる60代の方であっても、そこに広告が表示されていること自体を知らなかったという声も実際にあります。

店名と類似するキーワードとして「ヒアリングケアセンター」で検索した結果は以下の通りです。

全く広告表示がありません。どのようなカラクリがあるのかわかりませんが、くれぐれもご注意ください。(「ヒアリングケアセンター」であっても時々広告が表示されます。)

検索結果の「1」は当店と同じく日本補聴器販売店協会や日本補聴器技能者協会に所属する同業者。認定補聴器専門店を有する企業でもあります。自店の店名を掲載していますが、社会的にはお互いに認知度の低い店舗です。検索した店名とは異なる店舗名称が掲載されている広告であっても、「公式」というキーワードを掲載していることで誤解を招き、誤認して他社の広告を開いてしまうリスクが考えられます。実際にそのようなトラブルが発生しました。「2」は店名を掲載しない広告でした。色々と情報を掲載しているものの、広告を出している地区には店舗所在地が見当たらず、日本補聴器販売店協会の加盟店検索にて企業名と店名で検索をしてもヒットしないため、日本補聴器販売店協会には非加盟の店舗のようです。実態を理解することができませんでした。日本補聴器販売店協会は正当な販売を志す販売店が加盟している全国組織ですが、協会に加盟をしなくても補聴器の販売を行えるため、全国には多くの非加盟店が存在します。詳しく調べてみると「3」の事業を支援している会社であることがわかりました。「3」は当社に取り扱いの無い大手家電メーカーの補聴器ページ。「5」は薬局による補聴器の訪問販売の広告です。

「補聴器」など漠然とした業種に対するキーワードに広告を掲載することは自由であっても良いのかもしれませんが、店名検索に対する広告は、まるで店舗の前に他社の従業員が立っていて、店舗に入ろうとした高齢のお客様を自店舗に連れ去っていく…そんな広告活動に私は思えます。検索システム側の問題で広告を制御できない場合は、そもそもの広告活動を行わない選択肢があります。高齢の方を対象とする業種として、その企業がどのような倫理観を持って活動しているのかが表れていると思います。日にちを変えて検索してみたところ、今度は補聴器業界の重鎮が長年勤務していた老舗補聴器専門店の広告まで、当店の店名検索に対する広告に表示されていました。補聴器を売ることができれば手段を選ばない補聴器店から、明確な実態をつかむことができない補聴器業者、著名な大企業のメーカー、業界をリードしてきた老舗専門店…実に関係のない様々なタイプの企業広告が掲載されています。これが補聴器業界の現状です。ご家族に当店のWebサイトをご案内する際には、くれぐれもご注意ください。


あとがき

今回取り上げた同業他社による広告は何年も前から実は行われており、一時期は1社が中心であったところ、最近は多く掲載されてしまう状況にあり困っております。一番ひどい時期は、無資格の同業者が地域で当店しか保有していない認定補聴器専門店資格を自社が保有しているという虚偽広告を展開された数年間でした。その当時、店名を伏せて広告展開をされていたことから、当店の情報と簡単に誤認出来るような広告でした。掲載方法は変わりつつも、現在もその同業者の広告は継続して当店名の検索広告で掲載されています。このような同業者とは、関わらないことが一番という助言もあり、今までは静観し続けてきました。しかしながら、業種は異なりますが、今回のトイレまわりのトラブルが社会問題として取り上げられたことから、スタッフより要望があり、お客様の保護のためにもこの内容についてブログで取り上げることにしました。長文となりましたが、お読みいただきありがとうございました。


参考資料

補聴器の適正広告・表示ガイドライン (日本補聴器販売店協会)https://www.jhida.org/pdf/kensyo/koukokuguideline.pdf

補聴器の広告・表示事例集 『補聴器適正広告・表示ガイドライン』別冊 (日本補聴器販売店協会)
https://www.jhida.org/pdf/kensyo/koukoku_jirei.pdf

補聴器販売業プロモーションコード (日本補聴器販売店協会)https://www.jhida.org/pdf/kensyo/hapromotioncode.pdf