補聴器

一人ではない

先週末、数カ月ぶりにお会いしたのは突発性難聴で担当させていただいていたお客様。片耳のみ、聞こえにくくなり、その支えとなる補聴器の作成を担当しました。

使い始めは、仕事の間に使用していると、疲れてしまい、夜はバタンキューになっていたとのこと。音が入ってくることに脳が慣れるまで、時間がかかったのかもしれません。今では、突発性難聴になる前と同じくらいの感覚になったとお聞きできたこと、とても嬉しかったです。なぜかと言えば、私も突発性難聴の経験者だから。同じ境遇の人を救えてよかったなと。

私の場合は2度、突発性難聴になりましたが、幸いなことに、どちらの時も元通りに近い状態に戻ることが出来ました。私の突発性難聴では、片耳から入る全ての音が、扇風機の前で声を発した時のような、震える音に聞こえてしまう症状でした。この仕事をしていたからこそ、初期症状に、とっさに気づいたのかもしれません。なんとも言えない状態でした。
一度目は翌日すぐに耳鼻科の先生に診てもらったので、すぐに復活しましたが、二度目は新規事業の立上げ等も重なり全く自分を優先することが出来ず、治療を開始出来たのは少し時間が経ってからでした。
その結果、一度目のようにすぐに治ることは無く、時間を要しました。耳鳴りは残ってしまいましたが、何とか聴力は元通りに戻りました。この時も、耳鼻科の先生が支えとなってくれました。

治るのが一番ですが、そうならない方が多いのかもしれません。私の所にいらっしゃるのは治らなかった方だけなので正確な数値は分かりませんが。そういう時に一番に頼りになるのは、私達、補聴器技能者。そう胸を張って言いたいところですが、なかなか補聴器では救えないことも多いのが現状です。悪くなりすぎては補聴器では意味を成さないこともあるからです。

しかし、先週末のお客様は救うことができた。しかも、突発性難聴になる前と遜色ない状態に。彼にとっては、きっと私達のの存在が大きな支えになったのではないかと、もしくは、そうであればよいなと、そう思いました。

困ったときは相談してほしい。万が一かもしれないけれど、私たちがあなたの助けになることができるかもしれないから。

補聴器からJust earまで、ドラマチックな1週間

先週は前半部分で今年のテーマに合致する解決すべき課題が見えてきた反面、後半は今まで取り組んできたことへの良い効果が感じ取れた、そんな1週間でした。

本当に色々なことが起きましたが、1つ挙げるとすれば、補聴器メーカーを退職された方から、補聴器相談を希望されている方をご紹介いただけたことです。あり得ないこともないお話…かもしれません。しかし、メーカーの方々は、全国の補聴器専門店のことを、良い面も悪い面も理解されています。特に、長年業界にいて、何メーカーもの所属経験があり、上層部にもいた業界の重鎮の方であれば…。今回はそのような「重鎮」の方からのご紹介でした。

現役中であれば、「自社のものを販売してほしいから…」など、ご紹介いただける理由は理解できます。しかし、引退された今であれば、そのような必要はありません。むしろ、以前ブログで書きましたが、紹介する場合は、デメリットも生じます。そのため、「売ってくれるだけの店」にはご自分の信用に傷がついてしまうリスクもあり、安易には紹介はされないと思います。

現役中に深い親交があったのであれば、紹介しやすいという理由で、ご紹介もあり得ると思います。しかし、退職後にお会いする機会はあったものの、現役当時に深い交流があったという間柄ではありませんでした。そのため、カルテに書いていただいたご紹介者名には、驚きを隠せませんでした…。

ご近所のお客様であれば理由は分かるのですが、ご来店には1時間以上もかかる遠方のお客様であったので、こちらも普通ではありません(青山店のお客様という点では、高速道路や新幹線をご利用されるお客様もおり、割と「近距離」のお客様ではありますが…)。お住まいと青山店の間には、いくつもの補聴器専門店がある中、そこを飛び越えて、わざわざご紹介いただいたわけです。

理由がわからなかったので、「ご紹介者の方は当店について何かお話されていましたか?」とお聞きしたところ、「補聴器は調整次第。この店には腕のいい人がいるから。」と紹介理由をお話されたとのことでした。

その一言を聞き、真摯に難聴と補聴器に向き合ってきてよかったなぁ…と思いました。最近はお酒をまた飲むようになりましたが、その日のお酒が格別に美味しかったのは、言うまでもありません。このところ、信頼していた方々が相次いで引退や転職をされてしまったのですが、この方々ともこのような良い再開が出来ればと思いました。

補聴器とJust earとノーマライゼーション

「ヒアラブルからノーマライゼーションの実現へ…」
今回はイヤホンやJust ear、補聴器にまつわるお話です。

このところ、イヤホン周辺で起きている変化について、補聴器屋として感じるところは、イヤホンが段々と「補聴器に近づいている」ということです。
「ケーブルレスの充電式イヤホンを耳に入れるだけ」「イヤホンと同じ形の集音機が大手メーカーから登場」など、行きつく先は、耳に何かを入れている「ヒアラブル社会」ではないかと思っています。
補聴器はかなりの変革を遂げているものの、「障害や老いを認める器具」として見られてしまい、補聴器を必要とする難聴者が使うには、なかなかのハードルがあります。
しかし、音楽用イヤホンの力で「ヒアラブルな時代」に社会が変われば、補聴器を入れることへの抵抗が、ぐんと低くなるのでは…そう思っています。
「イヤホンが補聴器に似た機能を持ってしまったら、菅野さんには脅威では?」と、時々質問されるのですが、むしろ歓迎だと答えるようにしています。
補聴する器具を使う方が増えれば、「医療機器の補聴器」を使う方も必然的に増えていくのですから…。

障害を持つ人と持たない人が平等に生活する社会を実現する「ノーマライゼーション」という考え方が福祉の分野にはあります。
Just ear事業を青山店で始めるにあたり、開発責任者の松尾さんからは「補聴器のお客様に迷惑にならないか」とご心配いただきましたが、私にはこのノーマライゼーションの考えがあったので、むしろ歓迎であることを伝えた経緯があります。実際には色々なハードルがまだあるのですが、解決方法をつかめているので大丈夫だと思っています。

今回のブログは、先日配信のメルマガにて書いたものです。カスタムイヤホン(カスタムIEM)という新しい事業に取り組んでいるのは、ヒアリングケアに関わる事業領域の拡大という側面もありますが、根底にはこの「ノーマライゼーションへの挑戦」という想いがあることを知っていただきたく、ブログにも転載することにしました。「安く販売する」という安直な方法ではなく、どうしたら補聴器をもっと使ってみよう、補聴器の相談に行ってみようと思ってもらえるのか…根本を変えるために、日々試行錯誤をしながら、挑戦し続けています。