専務 菅野聡のブログ
業務と並行して在籍していた大学院の博士前期課程を先日修了(修士(老年学))しましたので、このことを少し書きたいと思います。
―
日頃の接客において、適切に補聴器のフィッティングができていても、補聴器の使用を望まれないお客様が一定数います。難聴以外の老化に起因する問題が背後にあることを感じ、その要因とリスクを把握し、実現可能な解決策を図る力を身に着けたいという思いがありました。そんな思いを持ちつつ2019年の12月に新たな補聴器店の在り方を具現化したのが、東急プラザ渋谷店です。補聴器の使用を望まれていない方々と繋がるために、ご家族にアプローチするという当時のコミュニケーションデザインは手ごたえをつかんでいました。しかし、これから飛躍させていこうとした矢先に、パンデミックが起きてしまいました。一大プロジェクトが始動して3か月程度のことであり、心血を注いで数年間準備してきたものが全て無に帰してしまう出口の見えない焦燥感が渦巻いていました。開店休業状態のこの期間をポジティブに活用するために、パンデミックが始まってちょうど1年後の2021年の春に、思い切って以前から心にあった疑問を解決するための行動に出ました。老化を専門とした大学院(学位プログラム)の門を叩いたのです。日本で唯一老年学の学位を取得できる学際的老年学教育を行う桜美林大学の大学院キャンパス(千駄ヶ谷キャンパス)が、青山本店から徒歩圏内という恵まれた立地であったことも、きっかけの1つでした。日常に戻った多忙な現在では到底チャレンジできなかったため、パンデミックよる空白期間を有効活用できて良かったと思います。
私が学び、そして研究をしたのは、老年学というエイジングの問題に取り組むための学際的学問です。1年目は老年心理学ゼミに所属し長田久雄教授(当時)に師事。2年目以降は老年医学ゼミに転籍し渡辺修一郎教授に師事し、加齢性難聴とその聴覚ケアに関する研究をしました。エイジングとは、年を重ねていく中で誰もが直面する「老い」のことです。避けて通ることはできません。このため、老化のスピードを緩やかにするためのアンチエイジングという考えがあります。最近はエイジングケアというキーワードと共に、老化現象が深刻になる前からの対策の重要性が浸透しつつあるように思います。皮膚のシワやシミ等のように比較的若いうちから衰えを自覚しやすいものから、主に高齢期に見られる歩幅が狭くなる老化現象など、年代を問わず様々な老化があります。加齢性難聴は主に40代以降に現れます。加齢性難聴とは特定できる原因がなく聴力が低下した難聴のことです。「老化」と一言で言っても、身体的な老化が全てではありません。心理的老化もあれば、社会的な老化もあります。または、それらが単体ではなく複合的に影響しあう老化もあります。補聴器による加齢性難聴の対応は、身体的老化に対するアプローチを意味します。エイジングケアの視点で加齢性難聴に起因する複合的な問題を捉えてみると、補聴器のフィッティングをしているだけでは、老化現象に対する十分な対策を提供できていないことがわかります。
今後は大学院で学び、研究して得た知見を活用し、より一段ハイクラスのエイジングケアを基盤とした聴覚ケアをご提供してまいります。現在進めている聴覚ケアに対する研究が一段落した後には、老化に関する研究の裾野を広げ、実務家として更なる未解決の問題に踏み込んでいきたく思っています。